ネットの医療問題に対してクリエイターは
どうコンテンツ制作に関わっていくべきか?
こんにちは! 雑誌編集者からwebライターへと華麗なる転身を遂げた宮川です。webメディアのコンテンツ制作に携わるクリエイターは、web上の表現や情報発信に関するリテラシーについて勉強しなくてはなりません。そこで、紙媒体からweb媒体へ移った自分にとって、第一線で活躍する記者やライター、webディレクターらが登壇するセミナーはうってつけの勉強の場です。
株式会社GIGでは、ITの最新トレンドに携わる人やIT時代を先導していく人を迎えてセミナーを開催しています。自分は、6月20日に開催された第4回のセミナーに参加してきました。テーマは「メディア関係者が“共犯”にならないためには?」で、医療記者の朽木誠一郎氏が講師でした。
ネットに蔓延する「医療デマ」というデジタルな病
2016年末に世間を騒がせた「WELQ問題」。WELQはグーグルの検索上位表示を狙って大量の記事をアップしていましたが、真偽のほどがわからない不正確な情報や荒唐無稽な情報も多く、メディアとしての信頼性や倫理が問われ、社会問題にまで発展しました。朽木氏はこういった一部のメディアの体質を問題視し、医療情報の正しい発信の仕方やメディアのあり方を模索。医療デマを取り巻く問題を取材していくうちに「信頼できる健康・医療情報を、自ら発信しなくてはいけない」という想いが芽生えたと言います。そして、WELQ問題に端を発したweb上の医療デマにメスを入れた単著『健康を食い物にするメディアたち』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を発刊しました。医療デマが起きてしまう構造を詳細に解説した内容で、根本には医療機関や運営企業だけでなく、その情報発信を担っているクリエイター側にも責任があるのでは?と朽木氏は問題提起しています。
セミナーが始まるや、朽木氏は参加者にこう問いかけました。
「思考停止していませんか?」
ハンマーで頭を殴られたような衝撃を受けました。朽木氏の言う通り、「クライアントがそう言うから……」「目標達成しなきゃいけないし……」という理由で、流れ作業のように仕事をしているのでは、とハッとさせられました。ライターや記者、編集者はお金をもらって取材して記事を書く、コンテンツを制作することが仕事です。しかし、同時に情報を発信する側としての責任も負わなくてはいけません。発信する情報を読んだ人にとって有益な情報か、それとも不利益なものか。ITが急激に進化し、ネットに情報が溢れているいま、文章を書くライターだけでなくすべてのクリエイターがあらためて考えなくてはいけない課題だと感じました。
利益主義の企業がSEOを使って情報を発信している現状
2018年6月1日より改正医療法が施行されました。それまで、テレビや新聞、雑誌、看板、チラシなど印刷物やメディアの広告は規制の対象でしたが、医療機関のwebサイトは規制の対象外でした。健康・医療情報を発信するネットの広告表現が事実上、ほとんど規制がかからない状態だったのです。冷静に考えると実に恐ろしい話です。ようやく時代に法律が追いついた感はありますが、そこで朽木氏はひとつの疑問を投げかけます。
「ネット広告はすべて規制の対象になったが、SEO対策はどうなのか?」。費用を払って検索上位表示させるSEOそのものは新たに提示された改訂版の医療広告ガイドラインに明記されていませんが、そのサイトや記事に書かれている情報は果たして正しいのでしょうか。それはネットで検索するユーザーはもちろん、コンテンツ制作に関わるクリエイターでも判断が難しいと、朽木氏は語ります。
WELQ問題を引き金に質の低いサイトの順位を下げるため、グーグルの検索アルゴリズムが変更され、品質評価の基準が変わったとされています。しかし、医療情報を発信するメディアや広告のなかには非常にグレーな表現やあいまいな言葉を使い、SEO手法を使って自社の医療情報を発信して利益追求をする悪質な企業や医療機関がいまだ存在すると、朽木氏は指摘します。
こうした企業や医療機関には潤沢な資本があるため、それらを広告予算に充てることができます。そして企業から制作費をもらい、国の認可を受けていない医薬品やエビデンスがないにもかかわらず法外な治療費がかかる診療などを掲載したwebサイトやメディアをクリエイターが作っているという実態があります。
誤った医療情報にクリエイターが振り回されないためには
では、医療デマにだまされないためにはどうすればいいのでしょうか。そこで、朽木氏が『健康を食い物にするメディアたち』でも紹介している健康・医療情報の見分け方として、一つのテクニックを教えてくれました。それが「5W2H」です。
What(何の情報か)、When(いつの情報か)、Where(どこの情報か)、Who(誰からの情報か)、Why(何のための情報か)、How much(いくらか)、How(どのように発信された情報か)という判断ポイントをもって、「世間に溢れた情報を真に受けず、自分でフィルターをかける必要がある」と言います。従来のメディアリテラシーにおける“疑う”“調べる”“比較する”という行動のなかで、疑う視点を持つことはクリエイターに限らず一般の方にも意識できることです。
ネット記事やランディングページなどのコピーや表現、内容で注意すべきポイントが「NGワード」「因果関係」「エビデンスのピラミッド」の3つです。ダイエット商材を扱う記事に多い「すぐに」「簡単に」「楽に」といったコピーや、医療サイトで表現される「最先端」「最新」「奇跡」といった言葉は、NGワードとして疑うに値します。
因果関係の有無は、「AだからBである」「BだからAなのではないか」あるいは「AだからBで、BだからCなのではないか」を判断することです。提唱する事象の原因と結果との因果関係は正しいのかどうか、という視点で情報を吟味する力が必要です。
「ダイエットに効果的」や「特定の病気に効く」といった表現には、科学的根拠(エビデンス)が必ずなくてはいけません。エビデンスのピラミッドとは研究機関での臨床実験で使われるもので、臨床結果の信頼性の高さやグレードを表しています。ピラミッドの最上位にあるエビデンスが最も信頼できるデータと言えるため、最下層のエビデンスを根拠に効果をうたっている商品や治療は、信頼性が低いと判断できます。
こうしたリテラシーの視点を持って、質の低いネット記事やサイト、効果が疑わしい製薬会社や健康食品の広告などにだまされないようにすることが大事であり、クリエイターは「怪しい」と感じた時点でクリエイティブに関わらないことが重要だと朽木氏は語ります。
まとめ
セミナーの最後に朽木氏はこう話しました。「信頼性の低い情報を扱った記事や広告を量産する仕事にクリエイターが加担するケースが非常に増えています。不正確な情報やインチキな療法を信じた人が、正しいかどうかもわからないまま命や財産に大きなダメージを負ってしまうこともあります。どうか一度、冷静になって“この仕事は胸を張ってできるものかどうか”を考えてほしいんです」。
約1時間のセミナーの後は、参加者とライター交えての懇談会がありました。
用意いただいた中華料理とお酒で和やかムードに。
PCやスマートフォンが広く普及し、webメディアで情報を得ることが容易になった現代。電通が発表した「2017年 日本の広告費」では、インターネット広告は4年連続二桁成長で1兆5,000億円規模になっています。ライターやディレクターは、webで情報を発信するということがいかに影響力があるかということをあらためて認識しないといけないでしょう。漫然とコンテンツ制作に携わっていると、エビデンスに乏しいデータや虚偽情報ばかりのサイト・広告の片棒を担ぐことになるかもわかりません。
信頼性の高いエビデンスに基づいた情報発信することを根本に「ユーザーにとってよいコンテンツとはなにか?」を常に考え、仕事に取り組んでいこう!と、セミナーを受けてあらためて決意することができました。
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